歴史
『易経』は易占いのテキストです。 書物としての歴史は大変古く、エジプトのパピルス文書と肩を並べる東洋最古の書物です。『易』という根本的な書物にはじまり、周の時代に解釈が大きく発展した『周易』を基に、現代に読みつがれている『易経』の体裁になりました。
『易』の本文は、暗示的、抽象的な短い辞(卦辞、爻辞)が記されただけのもので、用いられる時代によって、さまざまな解釈が必要でした。その結果、長い歴史を経て、多くの優れた賢人、学者の手による解釈文が加えられました。
著者については、あまりに発祥が古いため誰が最初を記し、また誰がその後の解釈書を記したかもさだかではありません。『漢書芸文志』に易の作者について、「人は三聖を更え世は三古を歴たり」とあります。三聖とは、伏羲、文王、孔子のことで、伏羲は古代の伝説上、神、賢人と崇められる人物です。
この伏羲が陰陽を唱え、周の文王が本文を記し、孔子が解釈書をまとめたとされていますが、あくまでも伝説であり、歴史的事実ではないといわれています。
占いの書、学問の書
『易経』は、学ぶべき書物として多面的な特徴をもつています。
- 占いのテキスト
- 哲学書
- 儒教の経典
- 処世術・智恵の書
- 道の書
多くの学者によって解釈がなされたことで、占いの書にとどまらず、学問・智慧の書としての側面をもつようになったのです。
四書五経の筆頭にあげられる儒教の経典であり、そして「帝王学の書」、「智慧の書」、「哲学・倫理」という多彩な分野に用いられてきました。「君子占わず」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。これは、荀子が「よく易を修める者は占わず」といったことに由来します。よく易を学んだならば、占わなくても先々を知り、行動の出処進退を判断することができるという意味です。
易経は、時について説き、そして兆しについて言及している書物です。物事が起こる微かな兆しを示すだけではなく、いかにすれば禍を避け得るかが、書いてあります。学ぶことによって、時の変化を知り、禍の兆しを察し、未然にそれを避けるということを実践していけるようになります。そして、禍を避けるのみならず、物事を見事に仕上げていく方法も書いてある、処世の智慧に満ち満ちた実用書なのです。
「易」と「易経」、呼び方はどちらでもいいのですが、ここでは根本となる文献を「易」といい、体裁が整った後、儒教の経典として四書五経にあげられ、現在まで読まれている書物を『易経』と区別します。